渡辺浩二設計室 別館 

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「夏涼しくて冬あたたかい家」(4/6)


地表面に対して垂直に、つまり「正面からまとも」に照りつける夏の太陽は、そのぶんだけ強烈に地表面を熱します。そこに触れ、あたためられた空気は上昇して気圧を下げて、風を招きます。地表面の熱は、それ自体は放射を続けてそのまま大気圏外に放出されるので、それ故夜は涼しいのだそうです。


やや脱線しますが、避暑のために高原に向かうときに浮かぶ定番の疑問、 「どうして太陽に近づいているのに、標高が上るほどに涼しくなるのだろう?」は、


「夏の暑さは、そのほとんどが(太陽光を受けた)地表面であたためられた空気によるものなので、標高がある程度上がって空気が薄くなれば、そのぶん伝わる熱も薄く(涼しく)なるから」 がその答えなのだそうです。

 

日射を防ぐ対策を念入りにおこなっても、熱は、ある程度は室内に入ってきます。そこで今回は、その熱を速やかに外に出す方法をご紹介します。


・「あたためられると上昇する」空気の特性を活かし、
・その特性を活かした窓の配置と間取りの工夫をおこなうと、


室内には熱はこもらずここちよく、風速1メートルの風は、肌に触れて熱を奪うことで体感温度を1℃下げる効果があるといわれますが、風向きと風量等によれば、場合によっては寒いほどになります。

 

夏、室内の空気はあたためられて軽くなり、上昇します。多くの場合、天井面から窓の上端のあいだには「下がり壁」が付いているので、あたためられた空気は天井にそれ以上の上昇を阻まれ、「逃げ場」をさがして水平移動しても、下がり壁に阻まれて、熱を帯びたまま、そこに留まり続けます。


そうならないように、風の出口を前もって計画しておきます。具体的には壁の最も高い位置、天井に接するところには、下がり壁はつくらないで、窓を設けます。


逃げ場のない熱気に出口(窓)を与えてやると、ちょうど水を張ったバケツの側面に穴をあけたように、熱を帯びた空気はたちまち外に流れ出ます。流れ出たら気圧が下がり、下部から空気を呼び込んでまた流れ出て、そこには気流が生まれます。


以前設計した住宅で、廊下の上部を吹き抜けにして高窓(下がり壁なし)を設け、明かり取りと排熱を兼ねたことがあるのですが、竣工後、梅雨時にお邪魔して廊下に立つと、湿気を帯びた空気が、汗ばんだ肌を通り抜けて、高窓に向かって流れてゆく様子がとてもよくわかりました。


更に言えば、あたためられると上昇する空気の特性は、屋根裏や外壁の排熱にも応用されて、「通気工法」の名称で、今では木造住宅では、スタンダードな工法になっています。

 

日本列島において、夏は、南東から北西への風が吹いて、冬はその逆に、北西から南東へ吹きます。


これは、夏は、ユーラシア大陸の地表面があたためられて空気が上昇し、低気圧となって太平洋からの風を呼び込み、冬はその逆に、熱容量の大きな太平洋上の空気があたためられて大陸からの風を呼び込むからであるといわれています。


建築環境・省エネルギー機構の気象データで、
8月(7〜22時)の最多の風向きを調べると


弊社のある境港は東北東で、
お隣の米子市は北東、
松江市では東で、


平均風速はともに、2〜3メートルほどでした。


たしかに境港の夏は、東からの風がきもちよく、冬は西風が厳しい印象です。


ただ厳密には風は、日ごと時間ごとに絶えず風向きと風速が変わります。その家が「よい風」を得るには、気象データに加えて周囲の建物の配置や実際に生活する時間帯の考慮が必要で、建物のほうにも風を招く工夫が必要です。

 

建物の工夫といっても特別なことは必要ありません。通り抜けようとする風の邪魔をしないように、南〜北、東〜西、下階〜上階への通風経路をその建物のなかに確保しておけば十分です(とはいえこれはなかなか大変ですが)。排熱ができ、垂直方向の気流の道があれば、あたためられると上昇する空気の特性を活かして、ちょうど京都の町屋のように、建物自体が風を招きます


この先、ひょっとしたら、人類が風をおこし雨を降らすことができる時代がやってくるのかもしれませんが、空気の流れにあわせた家づくりは、手間さえ惜しまなければ、今日確実におこなうことができます。


次回からは、冬の室内環境について書きます。

 
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