渡辺浩二設計室 別館 

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コストから逆算したプランニング その0


 

家づくりにおける、さまざまな創意工夫やアイディアは、気持ちのよい、快適で安全な、安らげる空間をつくりあげるためのものです。


が、それらが実現されるための大前提は「予算内に収まっていること」で、敢えて、直球ど真ん中に言い切ってしまえば、家づくりにおいての検討事柄とは、突き詰めると、


1:どのような家が
2:いくらでできるのか



このふたつしかありません。



「どんな家が」を予算内の「いくら」に収めることが、私たち建築士の重要な職能であるはずなのですが、その計画ごとに「世界初の試み」を必ず持ち合わせ、また、後に触れますが、プランの多様化に伴い、いわゆる坪単価などの従来のやりかただけでは「その計画のコスト」を正確にはかることはむずかしく、これまでの修行時代での経験をふりかえっても、方法論が確立されている場面に出会うことは、残念ながらありませんでした。


ですが、独立開業して、これまでできなかった「逆からのアプローチ」での経験を積み重ねることで、細部の違いを金額に反映して読み込めるノウハウ(のようなもの)の道筋が見えて、おかげ様でひと通り身についているようです。


そこで今回はそのノウハウの背景、


「どんな家が」と
「いくら」


のふたつが決まってゆく仕組みを知ってもらい、そこから遡ったプランニングを可能にするためには、何が必要なのかをご紹介します。


これから、以下の6つの項目に分けて話を進めてゆきます。


1:現時点における坪単価の効能と限界
2:家ができてゆく、そのシステム(「材料と人」編 )
3:      〃       (「お金と人」編 )
4:建設業界の商習慣の歴史と現状
5:家づくりのあたらしい動き
6:コストから逆算したプランニング



それでは、次回より本格スタートです。
 
| 6:プランとコスト | 20:00 | - | - | pookmark |
現時点における坪単価の効能と限界 (コストから逆算したプランニング その1/11)

 


坪単価とは、ある建物について、


建設費 ÷ 床面積 の計算式から導き出される、床面積あたりの建設費です。


例えば、


建設費が2000万円、床面積40坪(132m2)で完成した住宅の坪単価は、


2000万円÷40坪=50万円/坪、坪単価は@50万円/坪です。


この流れを逆から辿れば、


坪単価 * 床面積=@50万円/坪 * 40坪=2000万円


といったように、


坪単価と床面積から建設費を推定することもできます。仮に、


1:敷地条件
2:建物形状
3:規模
4:仕様


が全く同じであれば、坪単価は、そのまま新たな計画の予算組みに用いることができます。


また、「多少の違い」程度であれば、坪単価は有効な目安です。過去に似た事例があればあるほど、「参考資料」の範囲は広がるわけで、事前の予算組みは、より正確なものになるでしょう。


 


ただ、逆に言えば、


1:敷地条件
2:建物形状
3:規模
4:仕様


の4つが(ほぼ)同じでなければ、その建物の坪単価が


@45万円/坪なのか、
@75万円/坪なのか、


見当づけることはできません。


昔々、駆け出しの現場監督時代に担当した木造住宅の工事に一度だけ、「延べ床面積*坪単価=請負金額」
にて請負契約締結された現場を経験したことがあります。


当時、そのことに特に違和感も抱かないまま、現場はつつがなく進んでいったのですが、結局それが最初で最後の経験でした。振り返っていま考えると、どうやらこのあたりで建設(家づくり)業界のいろいろの潮目が変わったような印象で、ちょうどその頃を境にして、構造や断熱性能など住宅の内容への関心が高まり、性能表示制度の制定、建築基準法の大改正、住宅政策5カ年計画に代わる住生活基本法の施行などがおこなわれています。インターネットによる情報発信や情報収集が(私にも)できるようになったのも、この頃からでした。


坪単価は現在も、建物予算とボリュームを初期段階に大掴みするためには、大変重宝する指標のひとつです。おそらくこの先も変わらないでしょう。


けれども重宝するのは、計画の初期段階までです。なぜならば、ひとことでいえばコストダウンを計れないからです。


その理由を詳しく述べる前に、ちょっとだけ回り道をします。次回、物理的な「家そのもの」を分解して整理します。

 
| 6:プランとコスト | 19:00 | - | - | pookmark |
家ができてゆくシステム「総論」 (コストから逆算したプランニング その2/11)

 


建物予算を初期段階に大掴みするためには、現代でもまずは坪単価から割り出します。けれど重宝するのは初期段階までで、理由はコストダウンに結びつかないからです。


その理由を説明する前にちょっと寄り道して、実際に、家とは物理的にどのように出来上がってゆくのかを分解して整理します。


の、予定でしたが、いきなり脱線して恐縮ですが、構造計画の話をします。


ある建物の構造(骨組み)が安全であるかどうかを確かめる手順は、


(1)その建物に加わる力の大きさと向きを想定して、
(2)想定した力が、建物のどの部分にどれだけ加わるのかを解析して、
(3)各部材・接合部ごとに、力に対して壊れない部材・接合部であることを確認する。


と、3つの段階に分けることができます。


 


柱や梁などに流れる力の強さを個別に見定めて、部材ごとの強度を適切に選ぶことは、構造計画の最も重要なことがらです。


同様に、ある家(建築)の計画において、そこに投入すべき「人と資材の質と量」を見定めることは、コストから逆算したプランニングのをおこなううえでの一合目で、最も重要です。


それではこれより、「家とは、誰(何)がどのように関わることで、物理的にそのカタチを成してゆくのか?」、その要素を分解して整理してゆきます。一見複雑そうですが、本質はいたってシンプルです。

 
| 6:プランとコスト | 18:00 | - | - | pookmark |
家ができてゆくシステム「材料と人編」 (コストから逆算したプランニング その3/11)


家ができあがってゆく過程は、シンプルにいえば、


「材料を人の手(と機械)で加工して組み立てる」作業の繰り返しです。


住宅(建築工事)は、分業制でつくられてゆきます。今回は、分業制が、それぞれどのような「業」に「分かれているのか」をご紹介します。



まずはパート1、専門工事業者、「職方、職人さん」とも呼ばれます。


基礎工事、大工工事、左官工事などそれぞれの専門分野に分かれて、実際の工事をおこなう方々です。オーケストラにたとえるならば、バイオリンやフルートやチェロなど、映画ならばカメラさんとか音声さんなどの、実際に音を奏でたり写したりする「実働部隊」に相当します。


一般的な住宅では、およそ25業種の専門工事業者たちが、それぞれの部署に分かれて工事をおこないます。


続いてパート2、現場管理者です。


工事期間中、タイミングによっては5〜6業種の職方が同時に現場入りすることもあります。それぞれの作業に無理が生じて品質を落とさないように、そして設計者の意図が的確に実現されるために、現場に陣取って工事全体をコーディネートするのが現場管理者です。オーケストラの指揮者、映画での監督にその役割が例えられることもあります。

 

あっけないかもしれませんが、早くもここでもう結論です。


住宅の現場での分業制とは、おおきな括りで言えば、


(1)専門工事業者、
(2)現場管理者、それと

(3)材料


の3つの要素が、必要な全て
です(設計図書が整っていることが前提です)。


楽譜、楽器、演者と指揮者が揃えば演奏が成立するように、
設計、材料、職方と現場管理者が揃うことが、建築工事成立に必要十分な条件です。 


・(設計図書に基づいて用意された)材料を
・現場管理者のコーディネートのもと、
・各職方が加工することで



家は現実の形を成してゆき、その作業を繰り返すことで完成します。


次に、この3つ(専門工事業者、現場管理者、材料)に、お金(コスト)がどのように配分されてゆくのかを見てみましょう。

 
| 6:プランとコスト | 17:00 | - | - | pookmark |
家ができてゆくシステム「お金の流れ編 1」 (コストから逆算したプランニング その4/11)


家づくりの「現場」が成立するための必要十分な条件は、


・人(専門工事業者)
・人(現場管理者)
・材料


の3つが揃う事
です。
今回はこの3つに配分されるお金(コスト)の割合について書きます。


それぞれに、どれほどのコストなのかを知ること、とは、


(1)専門工事業者の作業量
(2)現場管理者の作業量
(3)材料の量


が、その現場において、どれほど必要なのかを知ることです。



大掴みにいえば、作業量、材料の量は、その現場の規模に正比例します。


システムキッチンやユニットバスなどの住設機器や仕上げの仕様と、施工難易度が一定であれば、(延べ床面積が)30坪の家と100坪の家では、100坪の家により多くの作業量と材料、つまり多くのコストがかかります。


では、規模、コスト=坪数、床面積なのでしょうか?



坪単価(工事費÷延べ床面積)が、いまでも有効な目安であるのは、延べ床面積が、住宅の規模をある程度までは示せるからです。
が、「ある程度」を超えると、いろいろと不都合が生じています。


なぜならば、実際に施工される作業面は床だけではないからです。床の他にも作業面は、屋根、軒裏、外壁、天井、室内壁と5つの面があって、これらの面積は建物の高さ、形状、階の比率と所要室の数によって、その計画ごとに異なります。作業量と材料量、つまりその建物のコストから捉えた「規模」は、これら6面の表面積の合計(=施工表面積)に一致します。


これは私見ですが、古来の日本建築には室内の壁がほとんどなく、間取りや高さも一定であったことから、その建物の全表面積に対する床面積の割合が多く、故に床面積がニアリーイコールの「規模」として用いられ、現在に至ったのではないかと想像しています。


左官屋さんに、外壁と室内の壁に「200m2」の漆喰を塗ってもらうと、200m2分の作業量、材料費、そして現場管理費が発生します。50m2だと足りないし、250m2ならば、50m2がロスです。



そのロスを防ぐためには数量を正確に計測できるだけの図面(設計)と図面から数量を正確に計る手間(積算)が必要で、経験からいえば、現場で発生するロスは、設計・積算のコストを上回ります。


そんなのコストダウン以前の問題だろう、と言われそうですが、「正確なコストを把握できないために生まれるロス」の芽を確実に摘んでおくことが、まず実践すべき、コストダウンの第一歩です。


次回、この「第一歩」について、異なるアプローチをご紹介します。

 
| 6:プランとコスト | 16:00 | - | - | pookmark |
家ができてゆくシステム「お金の流れ編2」(コストから逆算したプランニング その5/11)


正確なコストを把握できないために生まれる「ロス」を排除すること、つまり正確な数量を把握することが、コストダウンへの第一歩です(「そりゃそうだろ。というかコストダウン以前の話だろ」と、言われそうですが・・)。


このロス排除の方法には、その他にもあって、



(1)正確な、施工表面積を把握する


の他に、私が知っている方法はあとふたつ、


(2)プランの自由度を制限してかつ、生産棟数を増やし、ロスを「数の論理で吸収」する
(3)そもそもそのようなロスを認識しない


といったふうに、検討に値するのは、(1)、(2)のふたつです。



オーダーメイドの家づくりを考えれば(1)が理想でしょうが、折り合いがつけば、(2)の手法も合理的です。


ともかく、つくり手の端くれとしては、正当な、自由な競争を強く願っています。


おかげさまで現在の傾向は、市場の成熟と情報入手の容易性により、「ガチンコ」であることが、より合理的であると考える空気が年々濃くなっているようです。


身が引き締まる思いですが、とてもありがたいです。


次回は、家づくりの現場の、外側の仕組みについて書きます。

 
| 6:プランとコスト | 15:00 | - | - | pookmark |
建設業界の商習慣の歴史と現状 (コストから逆算したプランニング その6/11)


今回から2回に分けて、戦前から現在における家づくりの体制・システムの変遷について書きます。ざっくりと言い換えるならば、家という商品(この側面を軽んじてはならないと思います)をどのような店構えでどんな包装紙で包むのか、その歴史と変遷についてのお話です。


戦前までは建築のことを普請(ふしん)と呼んでいました。本来この言葉は、家づくりのみならず、その地域の公共社会基盤を地域住民でつくり維持していく事を指したのだそうです。建築主は「旦那」と呼ばれ、出来高報酬制で各専門工事業者を雇い入れ、現場は大工棟梁の采配に任せるスタイルでした。


戦前の住宅着工件数は資料をさがしたけれど残念ながら見つからず、直近の1946(昭和21)年で約30万戸/年でした。当時は建築確認制度はまだなく、市街地建築物法にもとづく警察からの許可制だったようです。



現在の家づくりの主流は、発注者(建築主さん)から工事を一括に請け負い、完成・引渡しをするスタイルです。


一括請負者は、建築主さんから「家づくりに関する費用」の支払いを受けて、そのお金で材料と各専門工事業者の手配、現場の品質管理、工程調整に伴うコストと自社の運営費を賄います。このような仕事をおこなうのは総合建設業者、または工務店と呼ばれ、社内に設計事務所を構えて、自社設計をおこなうところも多いです。


家づくりにおいてこのような手法が整ったのは、戦後まもなくの1950年(昭和25年)頃だといわれています。


サンフランシスコ講和条約締結を翌年に控え、ちょうどこの年に建築基準法、建築士法、住宅金融公庫法が制定されて、戦前の普請的な手法ではない、つまり「旦那」として工事に臨まないで注文住宅を建てたいという新しい顧客層の要望を満たすためのあたらしいシステムができあがりました。これならば棟梁をお抱えにしなくてもよく、あらかじめ総額が明示されているので公庫融資が可能であり、ひとつの窓口にお金を支払えば、家が完成します。


社会的・文化的貢献という側面を併せて考えるべきことがらなのでしょうが、ともすれば特定の階層による趣味、少し意地悪に言えば道楽の要素を完全否定できない「普請」を私たち一般人にも手の届くものとした一括請負方式の誕生は、当時の建築業界からすれば、革命的なシステム変更だったのではないかと想像します。



その後の住宅の着工件数は、爆発的ともいえる右肩上がりの増加を続けてゆきます。そして、すべての都道府県において住宅数が世帯数を上回った23年後の1973(昭和48)年に190万戸/年にまで達し、ピークを迎えました。
 

分離発注方式は、1990年代の初めごろに本格的な普及がはじまったと言われています。


一括して工事を請け負う総合建設業者を介さず、建築主が直接に各専門工事業者と個別の請負契約を結び、


・設計積算、
・仕様と工事費の検討、
・見積集計、
・契約書式の整備、
・公的申請、
・工事マネジメント


を建築設計事務所の建築士がおこなうスタイルです。各専門工事業者への工事費、建築設計事務所への業務を個別に「分離して発注」することがその名称の由来です。


1973年(昭和48)年にピークに達した住宅着工件数は、以降はゆるやかに減少を続け、2013(平成25)年は98万戸/年、2021年(令和3年)は85万戸/年でした。



次回、これらの3つの手法である、


・普請
・一括請負方式
・分離発注方式


それぞれの特徴を長所、短所に分けて紹介します。

 
| 6:プランとコスト | 14:00 | - | - | pookmark |
建設業界の商習慣の歴史と現状2 (コストから逆算したプランニング その7/11)


戦前から現在までの、


・普請
・一括請負方式
・分離発注方式


これら3つの特徴を長所短所に分けて書きます。


その前にまず、3つに共通する事柄をおさえておきます。


共通する事柄とは、「物理的な家づくり」自体は、


・普請であれ、
・一括請負であれ、
・分離発注であれ、


どれも同じ、違いはない、
ということです。



建築の法則に基づいて書かれた設計図書をもとにして、専門工事業者が現場の作法に則って腕を奮い、現場全体を工事管理者がコーディネートすることで家は完成します。材料と人の手と言葉を用いて、皆で協同して編み上げてゆくものが家であり建築物です。


これから述べるのは、家をつくること自身の外側、いわば「家づくりの仕組みの仕組み」についての違い、特徴です。



【1:戦前からの普請について】
建築主(旦那)が準備した資金で材料を買い付け、出来高報酬制で各専門工事業者を雇い入れ、設計と現場管理を大工棟梁に委任するスタイルです。直接買い付けたり雇ったりするところから直営方式ともよばれ、現在もこのやりかたは大工さんの直営工事として続いているようです。


長所は、
支払いが直接であるために各専門工事業者の顔が見える。専門工事業者(大工棟梁)が設計者と現場管理者を兼ねるので、情報伝達のロスがなく作業効率がよい ことが挙げられます。


短所は、
大工工事以外の仕様選定は、原則建築主と各専門工事業者との個別・直接のやりとりとなるため、全体のデザイン・バランス取りと工事費の管理は建築主の力量に任せられます。このことによりプロの建築主、つまり「旦那」であることを求められる傾向が強いといわれています。


【2:一括請負について】
ひと言で言えば、「旦那」でなくとも建築主になれる ことを目指したシステムです。
総合建設業者が材料、各専門工事業者の手配と支払い、現場の品質管理、工程調整をおこない、全体の費用はあらかじめ結ばれた(その家の完成についての)請負契約によって確定しています。



長所は、
あらかじめ請負契約書が交わされ、工事費が確定していることにより、住宅ローンを組む ことが可能です。家全体についてのコーディネートは総合建設業者に任せておけばよいので、建築主の負担は軽いです。


短所は、
実際の工事にあたる各専門工事業者を建築主の視点から捉えようとしても、元請けである総合建設業者を介さなければ建築主は関与できない「下請け工事業者」であることから、それぞれの「顔」が見えません。このような顔が見えない状態、言い換えれば元請け〜下請けの重層構造が、


・情報伝達のロスやミスの可能性、
・こまかな変更や修正に対してのレスポンスや精度、
・表層をつくり、運営するためのコスト


において、「不利側」の結果を招く要因として潜在しています(改善の取り組みについては後述します)。


【3:分離発注方式について】
建築主が専門工事業者に工事費を直接支払うところは1の普請、直営工事と同じですが、2の一括請負同様に「旦那」であることは求められません。設計と現場での采配、工事費支払いの管理は、建築設計事務所の建築士がおこないます。


建築士は建築主に対して建築の専門についてのアドバイスをおこない、設計積算、公的申請、見積集計、専門工事業者選定の助言、現場での工程管理、品質管理などのコーディネート・マネジメントの業務をおこないます。設計事務所への業務報酬と各専門工事業者への工事費は、個別に結んだ契約書に基づいて支払われます。



長所と短所、
直営方式の短所である 「建築主への負担」が軽減されますが、一括請負方式にくらべれば、負担は若干あります。


一括請負方式の短所である 「下請け重層構造」を解体して且つ、設計+現場管理=一人なので、情報伝達の効率、そして作業効率が高いです。


分離発注方式では、各専門工事業者と個別に請負契約を締結するので、その内容に基づいて住宅ローンを組むことができます。

 

まとめて比較すると、


1:直営方式(普請)は、業務効率は高いけれど建築主への負担が大きい
2:一括請負方式は、建築主への負担は軽減されているけれど、業務効率は低い
3:分離発注方式は、1と2の中間



といったように、どのシステムにも一長一短があります。


そしてこの3つについて、「顕在する建築コストの量」をモノサシにしてそれぞれを計ると、


1:直営は、建築主への負担分がコスト減となる
2:一括は、軽減された建築主への負担の分だけ、つまり業務効率の低さがコスト増を生む
3:分離は、1と2の中間



であることが見えてきます。



次回「家づくりのあたらしい動き」と題して、最近目にする一括請負方式の原価公開について書きます。
 
| 6:プランとコスト | 13:00 | - | - | pookmark |
家づくりのあたらしい動き(コストから逆算したプランニング 8/11)


「家づくりのあたらしい動き」と題して、総合建設業者さん、工務店さんが取り組まれている原価公開の動きから見える、これからの家づくりの方向性について私見を述べます。


原価公開とはどのような取り組みなのかというと、これまで総合建設業者さん、工務店さんが「家づくりにかかる費用」としてひと括りにしていた、


・各専門工事業者の工事費(原価)、
・現場管理費、
・自社経費


をそれぞれに分割して公開し、重層構造をなくして情報とお金の流れのロス、滞りを取り去りましょう、といった趣旨のようです。ホームページや情報誌、書籍からの情報に留まって、関係者の方に直接お話を伺ったことはまだないのですが、基本的な考え方は、私たちがおこなっている分離発注方式と同じだなあというのが、率直な感想です。


ネット検索で「家づくり 原価公開」と入力すると、たくさんの記事が出ます。今あらためてgoogleで検索したら188万件(2014年の検索では11万件でした)ヒットしました。この取り組みについて知らなかった訳ではないのですが、いまから20年ほど前は、全国規模で見ても目立った存在といえば岐阜県の(株)希望社さん一社くらいだったのですが、今回の検索によって、どれほどの社数団体数で実践されているのか、その実数がよくわからないほどの規模になっていることはわかりました。



パソコン一台、否、最近ではスマートフォン一個あれば、一般的な住宅建設に必要な粗利益率の情報が入手できる状況で、その情報(粗利益率)と見積明細書に載っている諸経費とを比べて、その違いをフィクションと称することにも、100%ではないにせよ頷けます。


しかし、もともとが家づくりを私たち「普通の人」にも可能とするためにうまれた一括請負方式の、良かれとおこなわれていた代行サービスのいわば大人の暗黙の了解の部分、つまり、これまで「言わぬが花」とされていた部分を明るみに出すということは、見方を変えれば見なくてもよかったことがらを直視せざるを得ないともいえるわけで、よい・悪いの単純な二元論で結論が出るものでもないだろうとも思います。


けれどその時代の「標準」の推移のなかの、たとえば医療における告知・インフォームドコンセントなどにみられるような閉じられた専門技術職からの情報公開の流れは、今後促進されることはあってもその逆はないだろうとも思います。単純な比較は危険ですが、アメリカの家づくりでは工事原価+経費の金額提示で、異なった数種類の経費の額によって受けられるサービスも違う、といったやりかたが大多数のようです。


そうした「現在」の世の中において、家という商品(この視点はとても大切です)を手に入れるプロセスのなかで、日常生活とかけ離れた金額の動きや複雑なシステムを直視しなければならない負担は、今やそれを隠すために覆っていた外皮一層ぶんのコストよりもその価値が軽くなってしまった、それ故の原価公開の流れではないのかとも思います。

 

繰り返しますが、単純な比較は恣意的な誘導を孕みます。しかし、そのことに充分注意を払って慎重に考えを進めても、これからの家づくりがこれまでより内向きに閉じるものではなく、外に向かって開かれたものになるだろうという予想は、私のなかではどうしても覆らないです。


これから先、どれほどの変化が、どれほどの速度で進んでゆくのでしょうか。


次回からは、これまでお話したことを総合した、「コストから逆算したプランニング」についてご説明します。

 
| 6:プランとコスト | 12:00 | - | - | pookmark |
コストから逆算したプランニング前編(9/11)


これまでの話を基に、コストから逆算したプランニングについて書きます(追記:長くなったので3回に分けます)。


まずは、これまでの話を(A)〜(E)の5点に整理して振り返ります。


(A)家づくりの現場の作業は分業制でおこなわれます。


分業とは、


イ:それぞれの専門工事業者
ロ:工事管理者   


とに分かれて、これに、


ハ:材料 


を加えた3つが、実質的な家づくりに必要十分な要素です。


(B)また、ある家一軒にかかるコストは、


ニ:着工前に必要なコスト 
ホ:工事に必要なコスト   
ヘ:工事以外の経費         


の3つに分類することができます。


(C)このうち、ニ(着工前に必要なコスト)と、ホ(工事に必要なコスト)は、


1:敷地条件
2:建物形状
3:規模
4:仕様


によって異なり、



(D)ヘ(工事以外の経費)の多少は、


「家づくりの仕組み」の仕組みの違いによって異なります。より具体的に言うと、


1:直営方式(普請):業務効率最も高いが、建築主への負担は最大、
2:一括請負方式:建築主への負担最小だが、業務効率は最も低い、
3:分離発注方式:1と2の中間


といったふうになり、それぞれに一長一短があり、


(E)顕在コストのみの比較であれば、


直営<分離発注(=原価公開の一括請負)<一括請負



といった並びになります。
 

では次に、建築主さんの視点から、家づくりがどのように見えて、実際にどのようなことが起きるのか、シミュレートしてみます。
 
| 6:プランとコスト | 11:00 | - | - | pookmark |