渡辺浩二設計室 別館 

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分離発注ってなんだろう (その1/5)

弊社の主な業務は、「住宅の設計監理と分離発注方式による現場のマネジメント」です。


今回から5回に分けて、分離発注ってなんだろうと、あらためて頭の中を整理したことについて書きます。とはいえ経験が土台の話なので、体系的でなかったり教科書とのズレが出たりしそうですが、実話に免じてその点はどうぞご容赦ください。

 

まずは現場の様子について書きます。


現場は職人さんたちが腕を振るい、現場監督(的な役割のコンストラクションマネージャー)が各職方間の工程調整や仕様・納まりの確認、施工精度の管理や資材の発注などをおこないながら、基礎ができ構造体が組みあがり屋根ができて壁ができて、少しずつ完成に近づいてゆきます。


現場では、特に「分離発注であること」とは関係なしに、建築の作法に従って、ヒトとモノと時間が流れてゆきます。


では、いったい何が異なるのか?

 

今回がよい機会だからとあらためて考えてみたのですが、現場をふくめた業務全般について、分離発注が一般的な形態とはあきらかに異なる点がふたつありました。


ひとつは、お金の流れかたが、他とは異なります。


分離発注方式の工事代金は、大工さん左官屋さん板金屋さんなどの職人さんたち、各専門工事業者にクライアント様から現金で直接支払われます(設計と工事マネジメントには業務委託契約に基づいた報酬が別途支払われます)。個別に分けて発注の対価として支払われるから、その名のとおりに分離発注方式です。


もうひとつは、最初から最後まで、一貫して専任の建築士がクライアント様をサポートすること。


ご相談、プランニング、設計、現場のマネジメントをおこないながらクライアント様の「直接の」窓口になり続けることは、いってみれば棟梁の采配とおなじです。分離発注に限ったことがらではありませんが昨今ではどちらかといえば少数派、というか希少種です。



諸説あるのですが、大量生産に向かないことがおおきな理由だといわれていますがこの先、「大量生産をしたい理由」はともかく、「大量生産しなければならない理由」がこのまま温存され続けるとは、どうにも思えません。


ふたつの違いが実務上ではどのような特徴となってあらわれるのか?


家づくりのスタートからから完成までのあいだ、建築主(クライアント様)、設計者、工事管理者、施工者(専門工事業者)、それぞれの視点からどう映るのかを次回、検証してみます。

 
| 9:分離発注とは | 13:00 | - | - | pookmark |
分離発注ってなんだろう(その2/5)

分離発注方式が一般的な一括請負の工事とは異なるふたつ、


お金の流れ(直接の支払い)と
一貫した「ワンストップ」のサポート体制


がどのような特徴を生むのか?計画のスタートから完成までを、家づくりの主要な「登場人物」である、


(1)建築主
(2)設計者
(3)工事管理者
(4)施工者



それぞれの視点からどう映るのか以下、書き出します。
(1と4は、これまでのヒアリングを基に書きました)


(1)建築主(クライアント様)



・分離して発注したぶん、工事費の支払い回数が増えて面倒だ。
・常に窓口として対応してくれるのが、建築の実務者で安心感がある。
・申請や設計施工 全般に関わってくれるので質問に対する対応が早く適確だった。
・打ち合わせをかなり密におこなったつもりが、最低限あのくらいは必要だったとも思う。
・実際の施工者に直接支払うので、支払っている実感が強い。
・トータルの建築コストは、結局安くついた。



(2)設計監理者( 弊社渡辺など )



・契約で設計監理業務の費用が定められているので、落ち着いて業務にあたることができる。
・十分な打ち合わせをおこない設計・仕様決定しないと積算と見積ができないが、そのおかげで後工程はスムーズで、結果的には最短ルートであった。
・現場マネジメントを兼ねるので、情報伝達など業務の効率と精度が高いと思う。



(3)現場管理者( 同上 )


・契約で現場管理(マネジメント)業務の費用が定められているので、専門工事業者からの見積が、そのまま工事原価になる(見積に経費を上乗せする必要がない)。
・実施設計図書と分割請負契約により、工事仕様と金額が事前に決まっている。
・設計監理者を兼ねるので、情報伝達など業務の効率と精度が高い。
・これらにより、現場のマネジメントに集中できる。




(4)施工者(各専門工事業者)


・建築主からの直接現金払いなので、手形不渡り等の心配がない。
・建築主との直接契約時には、工事の仕様と金額が事前に決まっている。
・設計者と現場管理者が共通なので、質疑応答の反応が速い。
・これらにより、施工そのものに集中できる。


書き出してみると、けっこういろいろありますね。特徴ってなんでしょう?


 

経験談になりますが、「前工程の精度の向上」によって、
「工事全体の精度が上がり、結果的に品質が向上する」ことがあげられると思います。
 

これは、

ひとつは設計の費用、現場管理の費用、施工の費用が明確に分けられ(分離して発注され)ているので、それぞれの責任の所在が明確であり、あわせて個々の仕様が決まらないと請負契約(着工)できない仕組みと、


もうひとつは(建物の意匠、仕様・数量にもっとも詳しいけれど施工にはかかわらない)設計者と、(現場で不明な点はそのつど設計者に質疑をあげなければ前へ進めない)現場管理者が同一人物であるので、情報伝達のロス・ミスが少なくレスポンスも早いこと、


このふたつによる産物であると思います。そして察しの通り、このことは品質とコストに少なくない影響を与えることが分かっています。


ただ、誤解のないように申し添えますが、これらはまちがいなく分離発注の特徴ですが、分離発注でなければ成し得ないもの、つまり分離発注が「絶対条件」ではありません。落ち着いた視点から見渡せば、それぞれの業態により、得意分野を活かしたそれぞれの方向性を探っている、というのが実状です。

 

あらためて書き出してみると分離発注、余計なものを削ぎ落としたシンプルなよい仕組みです。なんだかよいことだらけのようにもみえます。


けれどよく言われますよね、上手い話には裏があると。


分離発注にはデメリットはないのでしょうか?


次回、分離発注に潜在する(かもしれない)デメリットについて検証してみます。

 
| 9:分離発注とは | 12:00 | - | - | pookmark |
分離発注ってなんだろう(その3/5)

ここまでをみると分離発注、なんだかよいことだらけです。
ならば今回は敢えて、分離発注に潜在するデメリットについて、検証してみます。

 

まずは、
家づくり一般における「業界内でよく目や耳にする、建築主(クライアント様)が遭遇するトラブル」


を時系列でとりあげて、それが分離発注特有のものなのかを検証してみます。


ではまず「建築主(クライアント様)が遭遇するトラブル」から。


(1)基本設計        


・計画がまとまらない  
・要望の聞き取り拾い出しに問題がある 
・論点整理ができない
・気に入ったデザインではない 
・要望が反映されていない  
・提案に共感できない
・質問に対してクリアーな回答や提案をだしてもらえない
(特に構造とコストの裏付けに基づいた回答と提案)

            


(2)実施設計       


・実施図ができあがらない 
・建築として成り立たない(基本設計時の見込みが甘い)
・そもそも実施図がない(!)
・実施図の内容が薄い   
・要望があるのに詳細な聞き取りをおこなってくれない
・質問に対してクリアーな回答や提案をだしてもらえない
(特に水まわりの収納関係について、初期設定が甘い)
            


(3)積算・見積
      

・予算内にまとまらない
・予定の時期に着工できない
・修正案に共感できない 




(4)着工、(5)竣工・引渡し          


・調査不足により法令の制限にふれて着工できない
・打ち合わせと現場での内容が違う
・変更・修正の打ち合わせをしても現場に反映されない
・希望日に引き渡してもらえない

 

けっこうたくさんありますね。


けれどこれらは 個々のスキルに起因するものばかりで、分離発注特有のデメリットとはちょっと言いにくい です。


強いてあげれば前回のブログまでさかのぼって、「合計30回程にのぼる、各工事金額の支払い(銀行振り込み)をクライアントさんにやっていただく煩雑さ」がデメリットに該当しそうですが(「キャンプのカレー作りの手間みたいなもので、手をかけたぶんだけ楽しかった」とのご感想も伺うのですが)、それ以外は存在しないのか?


確証はないのですが何かが抜け落ちているような気がします。


全体を見て、メリットとの釣り合いがこれではどう考えても取れない。不自然です。どこかに隠れた何かを見落としているのではないか?あるいは考え方が硬直して、目の前を歪めてみているのか?


どうやらこれまでの考え方をもう少し外に拡げなければ、正確な答えが導けないのかもしれません。ちょっと頭をひやしてから次回に向けて、すこし考えてみます。

 
| 9:分離発注とは | 11:00 | - | - | pookmark |
分離発注ってなんだろう(その4/5)

(潜在する)分離発注のデメリットについて、頭を冷やしてあらためて考えてみました。が、なんだか堂々巡りで先に進むことはできませんでした。


ならば、新たな知見を得る(近づく)ために、これまでの自分の経験、キャリアを超えた昔に遡ってみることにしました。今回は、戦前からの住宅建築の歴史を振り返ってみます。

 

戦前の家づくりは建築、ではなく普請(ふしん)と呼ばれていました。谷崎潤一郎さんの「陰影礼賛」や山田芳裕さんの「へうげもの」で目にしたくらいでよく知らなかったのですがこの言葉は、本来は住宅建築にかぎらず、公共社会基盤を地域住民でつくり維持していく事を指すのだそうです。


建築主さんは「旦那」と呼ばれ、出来高報酬制で職方を雇って普請に臨み、現場の采配は棟梁にまかせるスタイルで、まさに旦那、一大事業主な感じです。


当時の住宅着工件数は資料をさがしたけれど残念ながら見つからず、直近の1946(昭和21)年で約30万戸でした。建築確認制度はまだなく、市街地建築物法にもとづく、警察からの許可制だったようです。

 

サンフランシスコ講和条約を翌年に控えた1950(昭和25)年に建築基準法、建築士法、住宅金融公庫法が制定されています。


どうやらこのあたりで戦前の普請ではない家づくりの手法、つまり「旦那」として工事に臨まずに注文住宅を建てたいという新しい顧客層の要望を満たすためのパッケージとして、一括請負というシステムが産み出されたようです。


棟梁をお抱えにしなくてもよい、総額が明示されて公庫融資が可能であり、ひとつの窓口にお金を支払えば家が完成する。いまではそれがあたりまえとも思える仕組みができたのは、戦後まもなくのことだったようです。


戦後復興と都市への人口集中の、無尽蔵といえるほどの住宅需要が背景にあって、生産性を向上させ規模を拡大して経済活動のなかにどんどん取り込まれて、家づくりが、基幹産業として成長してゆくために必要な速度をここで得なければならなかった、といった見かたもできるのでしょうか。


高度成長のなか、年間の住宅着工件数はそれから右肩上がりの増加を続けて、すべての都道府県において住宅数が世帯数を上回った23年後の1973(昭和48)年に190万戸に達したのをピークに、以降はゆるやかに減少してゆきます。その40年後の2013(平成25)」年の統計は98万戸で、さらに2021(令和3)年では85万戸でした。

 

次回、このような戦前からの家づくりの歴史を下敷きにしてみえてきた、分離発注に潜在するデメリットについて書きます。
 
| 9:分離発注とは | 10:00 | - | - | pookmark |
分離発注ってなんだろう(その5/5)

すべての都道府県の住宅数が世帯数を上回った1973年を境にして、着工件数が緩やかな減少を続けてゆくなか、耐震偽装問題で揺れた翌年の2006年、「住生活基本法」が制定されました。


これは、1966年から続いた「住宅建設5カ年計画」を廃止して、「フロー消費型から長期にわたって使用可能な質の高い住宅ストックを形成」するよう、住宅政策の転換をおこなうものでした。

 

分離発注の家づくりについて、この場をお借りしてあらためて考え、これまでさまざまな方向から検証することができました。あやふやだった特徴も、いろいろ削ぎ落とすなかでいくらかは本質に近づけたかもしれません。ただその特徴は、いまだメリットの部分しか捉えられずに、なんだか片手落ちな感じでもあります。

前回、戦前からの家づくりの歴史を振り返り、そこで得た知見を加えてあらためて考えてみたのですが、私なりにですが、分離発注についてのデメリットとは、こういうものではないか、といった考えが浮かびあがってきました。


今回はそのことについて書きます。

 

何だと思われますか?


私に見えた、分離発注に潜在するデメリットとは、


「そのメリットが従来型、一括請負のデメリットを解消するものでしかない」ことでした。


わかりにくくてすみません。
まわりくどいかもしれませんが、少しおつきあいください。


現実に必要な粗利益が一般の工務店さんで25%、ハウスメーカーさんではそれ以上であることはいまやインターネット(というかスマホ1台)で割りとあっさり検索できます。


が、提示される見積上の諸経費は10%のままであるという価格の二重構造が、住生活基本法で定められたような「質の高い住宅ストック形成」を望む建築主さんの不信を招くケースが出ているようで、「不透明な価格の根拠がわからない。納得いかないものにカネは出せない。」といった声は、実際に私も伺ったことがあります。



その「わかりにくさ」を解消すべく、二重(提示金額と実態、あるいは元請と下請)だった外側の殻を剥ぎ取って軽量化をはかったのが分離発注方式です、というのがこれまで挙げてきたメリットとは違う側面の、分離発注方式の特徴、メリットです。


しかし、それらが未来永劫メリットであり続けることは、決してあり得ないでしょう。なぜならば、戦前から戦後の家づくりの歴史からもわかるように、社会背景の変化(と制度疲労)は「ふつうに起こり得ること」だからです。

 

今はまだよくわからないけど将来、システムの変更を社会的に要請されるほどの「何か」が分離発注そのものに構造的に含まれていること。それがこれまで挙げてきたメリットと釣合う、分離発注に潜在するデメリットの正体ではないか、というのが今の私なりの結論です。
 

最後に(株)イエヒトさんの紹介をします。分離発注方式の老舗で、鳥取県米子市にあります。


分離発注に「分離発注」という名前がつけられる前から、この手法を国内ではじめて本格的に実践し、現在では、分離発注方式を実践している設計事務所のサポート業務をおこなっています。補償制度や分離発注専用のフラット35など、老舗ながらのサービスを揃えていらっしゃいます。



ホームページ も充実していて、システムについての説明や、(ないにこしたことはありませんが)工事中または引渡し後の建物の不具合や専門工事業者・設計事務所の倒産などにも対応した補償制度についての説明が掲載されているQ&A、全国各地の完成事例など、これまでに寄せられたさまざまな問いに対応した構成・内容になっています。



 
| 9:分離発注とは | 09:00 | - | - | pookmark |