渡辺浩二設計室 別館 

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シックハウス


ふた昔くらい前、完成間もないお宅を訪問すると、鼻がツーンとしたり場合によっては、少しだけ気分が悪くなることがありました。「ツーン」の原因は、主に仕上材に含まれている溶剤や接着剤の成分が揮発しておこるものだと言われていました。


その後、こうした家に住むことで頭痛や湿疹、めまいや呼吸器の疾患など、日常生活に支障をきたす方が次第に増えて、一連の症状は「シックハウス症候群」と呼ばれ、社会的な問題として1997(平成9)年ごろからニュースなどでもたびたび取り上げられました。


疲れを癒す場所の家で健康を害してしまうことは、家づくりに関わるものとしてはなんとしても避けなければなりません。今回は法令の整備など、その対策の現状を整理して、実際の設計と監理業務において気をつけるべきポイントについて書きます。

 

シックハウス症候群の おもな原因とされるのは、揮発性有機化合物とよばれる化学物質です。厚生労働省は2000(平成12)年、これらのうちの13種について、室内濃度指針値(「シックハウス問題に関する検討会」中間報告書)を示しました。


下記がその内訳で、舌を噛みそうな名前が並びますが、これらはみな、住宅に使用される接着剤や塗料、防腐剤、防カビ剤、防蟻剤に含まれている(いた)ものです。


(1)ホルムアルデヒド
(2)トルエン
(3)キシレン
(4)パラジクロロベンゼン
(5)エチルベンゼン
(6)スチレン
(7)クロルピリホス
(8)フタル酸ジ-n-ブチル
(9)ラトラデカン
(10)フタル酸-2-エチルヘキシル
(11)ダイアジノン
(12)アセトアルデヒド
(13)フェノブカルプ

 


厚労省の指針を受けた国交省は2003(平成15)年、建築基準法を改正しました。


その内容を要約すると、


・ホルムアルデヒド(厚労省指針の(1))の使用制限
・クロルピリホス (  〃      (7))の居室への使用禁止
・室内換気の基準と換気設備設置の義務付け



が定められました。これらは「シックハウス法」とも呼ばれています。


 

日本住宅性能表示基準には、特に仕様や等級は定められていませんが、建物の完成時に室内の化学物質濃度を測定して、その値を表示することができます。


測定の対象となるのは、建築基準法とは異なり、厚労省の濃度指針のなかの、


・ホルムアルデヒド
・トルエン
・キシレン
・エチルベンゼン
・スチレン


の最大5物質(※)です。


※ホルムアルデヒド以外は任意選択です。

 

最後に実務上において、心がけていることを書きます。


法令改正以前から自然素材使用の割合が多く、機械換気システムも用いていたので、改正点について特に違和感もなく対応できた印象だったのですが、いろいろな事例を見た正直な感想として、条文の文言だけの判断では、本来の趣旨を外して十分な効果を得られなかったり思わぬ不具合が発生する可能性もあるなあと思っています。


私は以下の3つに気をつけています。


(1)十分な自然換気と室内通気ができるような窓位置と形状の工夫
(2)機械換気のショートサーキット防止
(3)通気確保と音漏れ対策の両立



(1)については、
風通しのよい家であることは、その住宅の室内環境と省エネルギー性、耐久性にも関わるきわめて基本的なことがらです。天気のよい日には窓をあけたくなる家にしましょう。これも換気を促すという意味では有効なシックハウス対策です。


(2)について、
給気口と排気口の位置が近すぎると、給気された空気がほぼそのまま排気されてしまい、本来の目的である、室内空気を入れ換えることができません。このことを平面計画の際に頭の隅に入れて、ところどころで位置の確認をしておくことが肝要です。


(3)について、
空気の流れる道が部屋を横断する場合、たとえばドアの下端をくりぬいて通気としたときに、そこから音が漏れます。最近は建物の気密性が高くなって他に音の逃げ場がないので、条件によってはこの音は予想以上に響きます。


次回は「音とニオイについて」です。

 
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音とニオイ


その住宅に本格的なシアタールームやピアノ室などの防音室はなくても、音について、一定の配慮は必要であると考えています。ニオイを伴って流れる空気の向きについても同様です。


音とニオイについて、具体的に検討すべき守備範囲には、その感じ方の「幅」によって個人差があるようですが、今回はそのなかで必須と思われる、


・建物内の防音対策(具体的にはトイレの配置と天井、壁の仕様)
・外部からの騒音対策



について書きます。

 

まず、音の特性についてのおさらいをします。


音は、空気と固体の震動により伝わります。つまり、その部屋の隙間が少なく、天井や床や壁の比重が大きければ大きいほど、音は伝わりにくくなります。カラオケルームの防音性能を高めるために、入口ドアを気密用パッキン付きの重いものにしたり、天井や壁下地を石膏ボードを二重張り、または鉛の板を貼ったりするのは、


・震動した空気を通さず
・壁や天井自体の震動を極力おこさない


ような、防音室とするためです。


音のエネルギーの強さは、距離の2乗に反比例するといわれています。同じ音源で、距離が2倍に延びると、音の強さは1/4に減少します。距離が4倍ならば、音は1/16に減少します。

 

これらの音の特性を踏まえ、求められるトイレの配置と、天井・壁・開口部などの仕様について考えます。


一般的な木造住宅の天井と壁の下地は石膏ボードなので、質量(比重)は十分です。出入口戸の木材も、それなりの遮音性はあります。なので、


いかにして騒音源からの距離をとるか
・いかにして隙間からの音漏れを防ぐか



が、「肝」になってきます。


天井と壁の隙間については、比較的容易に防ぐことができるのですが、問題は出入口の隙間です。特に引戸の場合、構造上必ず、戸と壁のあいだが3ミリ程度空くので、ここから音が漏れます。ドアの場合、気密性は高いのですが、換気扇の給気用にドア下端をくり抜く(アンダーカット)と、やはりそこから音漏れをおこします。


つまり、特別な対策を講じないかぎり、トイレの音は出入口から漏れます。
音漏れに対して、どのような対策を講じればよいでしょうか?


と、煽るような書き方をしましたが、実際には、
・トイレの出入口を主要室からできるだけ離したり、
・ホールや廊下、または物入れなどを介すかたちでトイレを配置すると、
まず問題にはならないレベルに達します。
便器をサイホン式、あるいはサイホンボルテックス式などの、排水音の小さなタイプを選ぶのも効果的です。


ニオイについては、水洗であればあまり気にしなくても大丈夫でしょうが、水洗でなければ、ほぼ、音についての配慮と同じことが言えます。


※掃除のしやすさについては、別の機会に触れます。

 

次は外部からの騒音対策です。


JISの規格からみると、一般的な住宅に使用される窓ガラスはおおよそ、


「おとなりさんの話し声は遮断できるけれども、主要道路に面した騒音を完全には防げない」くらいの遮音性能です。


こうした場合の遮音性向上には、この窓を二重窓(窓+窓)にしてやることが有効で、大掴みにいえば、主要道路に面していても、二重窓にすることによって、室内は図書館ほどになります(最近では、既存住宅用改修用の後付けタイプもあるようです)。そして、木造住宅の外壁の遮音性能は、ほぼ二重窓と同程度です。ペアガラスは断熱性能は高いですが、遮音性能は通常のガラスと大差ありません。


建築基準法には戸建住宅への遮音の規定は無いのですが、日本住宅性能表示基準には使用するサッシの遮音性能(JIS)に応じた等級分け(1〜3級)がなされています。

 

外部騒音の遮音については、日当りの確保や視界の「抜け」や通風など、その敷地が持つ長所を最大限に活かすことと併せて検討すべき項目です。原則としては、「幹線道路などの騒音源に面する大開口を設けない」ように成り立つ計画をまずは考えて、それがむずかしいようであれば、プラスアルファの工夫、または製品の活用を検討する。


このあたりの検討の順序は、トイレの音対策と同じです。

 
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